漢方の基本理念「自然との調和」
漢方の原典『黄帝内経素問』の上古天真論篇に漢方の基本的な考え方を述べている一文があります。
「其の道を知る者は、陰陽に法り、術数に和し、食欲に節あり、起居に常あり、妄りに労をなさず、故に能く形と神と倶にして尽き、其の天年を終り、百歳を渡りて乃ち去る」とあります。
これを現代のことばに直すと「大自然の法則をよく心得ている者は、天然自然の順序法則に順応し調和して自己の行動を律し、暴飲暴食をすることなく、日常の生活は常に変わらず、むやみに心身を過労して精力を消耗する様なことをしないため、肉体と精神が片ちんばにつきるようなことなく、両者とも同じようにつきて、天寿を終わり百歳をわたってこの世から姿を消せる」ということになります。
人が健康に生きる基本条件としては、生活環境、気候風土と食物があげられます。
この三つの調和が破れた時に人は病気になるのですが、この破れた調和を天然・自然のもので補って修復しようというのが漢方であるということができます。
漢方の理念(基本精神)を一言でいえば「自然との調和」ということになり、自然との調和を実践した生活を続ければ、不老不死までは望めないが、天命をまっとうし、百歳を越えて生きられ、静かに老衰してこの世を去れるということでもあります。
注目すべきは「能く形と神と倶にして尽き(肉体と精神が片ちんばではなく同じようににつき)」ということばです。
現代の老齢化社会の困った問題は、頭(精神)は元気なのに体が動かない老人、また逆に体は元気なのに頭(精神)が働かない老人が多いことにあります。自然と調和した生活態度を持ち続け、医療にも漢方を多く取り入れることが21世紀の人間社会を幸せな社会にすることにつながると確信しています。
膝痛・腰痛の漢方対策
現代医学における痛みの分類
現代医学では痛みを、末梢性、中枢性、心因性に分けています。
末梢性での傷み
表在性:皮膚粘膜などに刺激があるときの痛み
深在性:内臓、関節、胸腹などに刺激があるときの痛み
投射性:刺激と離れた部位に感じられる痛み
中枢性の痛み
脊髄、脳幹、視床皮質などに与えられた刺激が原因となる痛み
(投射するものもある)
心因性の痛み
器質性の刺激の原因が見当たらない場合の痛み
現代医学の痛みの治療
現代医学的な痛みの治療法は、原因の除去、痛みの伝達経路の遮断、疼痛感覚の閾値上昇・疼痛反応の変形に分けられます。
原因の除去
刺激発生の部位の除去 外科的手術
刺激を発生する病気の治療 内科的治療
刺激発生機構の除去 理学療法、鎮痛剤、外科的手術、神経ブロックなど
(血管収縮、筋変縮、発痛物質など)
痛みの伝達経路の遮断
神経科学的遮断 局所麻酔剤、神経破壊剤による神経ブロック
神経の物理的遮断 外科手術による神経遮断
疼痛感覚の閾値上昇、疼痛反応の変形
鎮痛剤、鎮静剤、神経安定剤、精神療法
漢方では疼痛をどう考えているか
恒温動物である人間は外界の気温温度変化に応じて自律神経が働き、血管系、リンパ系、汗腺が収縮、拡張し、体温を調節することで対応している。この機能が外界の変化に対応できれば異常を生じないが、機能低下や極端な外界変化を受けて対応できない時に逃避反応として痛みが生じる。リンパ節が水滞によって腫脹している時や、寒を受けて収縮してり、湿を受けて表が発散不良を起こしたりして、更に強い水滞となった時、風寒湿による疼痛が生じる。これは、気剤による発散、温剤による去寒、利水剤による排水を行うことによって解消される。
血流が圧迫されたりして血液の粘稠度が増している時に、これを停滞させ、あるいは亢進させる因子が働いたときに、鬱血および熱痺の痛みが生じ、血証の疼痛となる。この血証は血剤によって解消される。
また人間工学的に、心臓に近い左上半身と、下向大動脈の下向していく右下半身には血証が多く現われ、血流の弱い右上半身、左下半身には、水滞、気滞の疼痛が出る。
痛みを生じる基本的なパターン
1.皮膚からの蒸泄がスムーズに行えなくて、体表に熱がうっ滞している
外からの原因:湿・風・寒などのために表が閉じてしまう
体内の原因:皮膚表面への体液の補充が少ない
熱のこもりが深部におよび、筋骨まで届くと骨節疼痛となる
2.血虚(血液不足:肝虚 血流不足:心虚)で体表に届く血液が少なくなり、体表の発散不足を生じ、深部に熱がこもり痛みが生じる
1.2.に津液不足が加わるケース、血熱が加わるケース、お血が加わるケースなど、要因が重なってくることが多い。
漢方治療のポイント・左右による痛みの違い
漢方の理論では、上半身は左が陽、右が陰とされ、下半身では上半身と逆転し、右足が陽、左足が陰となる。血証は陽の部位(左手・右足)に、水毒証は陰の部位(右手・左足)に多く現れる。右足の方が精気をより多く受け、右足の方が左足より強い。また邪を受けやすいのは左足。左右同じように病邪を受ければ、右手・左足が先に痛くなる、あるいは右足より左足の痛みの方が強い理屈になる。
現実には右足だけが痛む、左より右の方が痛みが強いという場合もある。この場合は、風寒湿水などの病邪は多くないのに、体内に血流を阻害する要因(お血など)を持っているために生じていると考えられる。
痛みに対処する上では、風寒湿の原因を見つけると同時に、全身的な気血病像の見極めをあわせ行うことで適切な治療方針、処方選定が可能になる。
腰痛・膝痛によく使われる漢方処方
1.急性の熱疾患の時 寒気を伴う
麻黄湯 :風のひきはじめ、さむけ、頭痛、身体のふしぶしの痛み
葛根湯 :感冒、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み
2.腎虚に起因するもの 腰の冷え、だるさを伴う
八味地黄丸 :四肢が冷え、口渇がある、下肢痛、腰痛、しびれ、むくみ
牛車腎気丸 :四肢が冷え、口渇がある、下肢痛、腰痛、しびれ、むくみ
3.お血に起因するもの お血(おけつ)とは漢方独自の概念で、古血(非生理的な血液)の
こと。内出血、怪我、手術でも生じる。
婦人科系の異常がからむ事が多い。
桂枝茯苓丸 :冷えのぼせ、頭重、肩こり、月経不順、月経痛、しみ
桃核承気湯 :便秘がち、腰痛、月経不順、頭痛、めまい、肩こり
4.水毒に起因するもの 水毒症状を呈している
桂枝加苓朮附湯 :関節痛、筋肉痛、しびれ痛
よく苡仁湯 :関節痛、筋肉痛、しびれ痛、重だるさ、軽いむくみ
麻杏よく甘湯 :関節痛、神経痛、筋肉痛、頭重、しびれ痛、かるいむくみ
防已黄耆湯 :水太りタイプ、関節痛、足のむくみ
越婢加朮湯 :口渇、むくみ、関節炎、リウマチ、腎臓炎、湿疹
5.冷えに起因するもの 冷えると痛みが増す、温めると気持ち良い
当帰芍薬散 :冷え性、貧血、疲労、肩こり、腰痛、むくみ、めまい
五積散 :腹や四肢の冷え、下肢の痛み、しびれ、頭痛
膝痛・関節痛の養生と問題点
腰、膝関節の病変には腎機能の弱化と水滞が関与することが多い。
気候・風土・環境から
1.日本は四面を海に囲まれ、高温・多湿である。ここで生活する人は、体に水がたまりやすく、水分代謝障害になりやすく、腎に負担がかかってくる。
2.エアコンの普及で水の発散が妨げられて頭熱足寒が助長される。特に冷房は体を冷やし夏でも寒を呼びこむ因になり、痛みの因になっている。また、家庭や職場の機械化、自動化の導入により、体を動かすことが昔に比べて極度に少なくなり、体表からの発汗・発散が減少している。
腎に負担をかけない、水滞を起こさないような養生が大切。
食生活から
1.日本人は古来稲作が主体の菜食民族で、水分の多い米・野菜などを食してきた。また、甘い食物は腎の働きを抑制するのに、食の洋風化により、甘味のたくさん入った飲料水の多飲と、甘い果物の流行と多食の食習慣が、多湿の気候の下で水の停滞を多くし、腎に負担をかけている。水物、果物、生野菜を少なくすることが必要。
2.水滞は内臓に負担をかける要因である。これを排出するのは、腎・肺・大腸と皮膚である。腎を補うのは?味、助けるのは酸味・辛味、益するのは苦味である。日本人は腎の負担を軽くする塩と香辛料の使用が肉食民族に比べて少ない。梅干・味噌・漬物・佃煮などの保存職は減塩していないものにし、ニガリ(Mg、K、Ca塩など)成分の入った天然塩の使用が必要。
3.緑色野菜には、葉緑素(Mg塩)が多く含まれ、血液生成のもとを補給し血脈を整える。緑色野菜の摂取が不足すると便秘を招いて心・小腸系に負担をかけ、また貧血を助長し血行障害を招いて冷えを生じさせる。緑不足の人はクロレラやクマ笹で補うのが効果的。
4.冷えは、肺・大腸系に水滞をもたらす。気体として水を発散させるには辛味が必要となる。辛味の摂取が不足すると、咳嗽・便秘にもなりやすい。香辛料の正しい使い方が必要。
5.カルシウム等のミネラルの十分な摂取が、補腎の面から重要。
本稿は、第4期漢方実践講座(日中医薬研究会関東支部・平成11年)テキストより転用しました。
マサキ薬局ではまず痛みを起こす原因を、漢方の病理に基づいて、出来るだけ細かく把握し、さらに、全体のバランスのくずれも勘案し、それに応じた薬を選定します。お困りの方、ぜひ一度ご相談ください。
夏バテで胃腸のトラブルは漢方で
夏ばてのメカニズム
気温の高い夏は、皮膚や頭部・上半身に血液が集中する状態になっています。
一方、体の内部の胃腸には血が少ない状態つまり貧血の状態になっているので、暑さが続くと負担に耐えられなくなって疲労や食欲不振、腹痛、下痢が起るのです。
夏は水分代謝が激しいので、それだけ水分の補給や冷たいものが欲しくなりますが、水分を沢山飲んで体に入れても、塩分の補給が少ない時は尿や汗で水分を排泄しきれなくて、胃腸に水分が停滞してしまいます。
この停滞が胃腸を冷やして機能を低下をさらに増し、腹痛や下痢をひき起すことにつながって来ます。
漢方薬は、体のバランスの崩れを是正します
漢方は、悪い部位と症状でお薬を選びます。
胃腸薬といえば胃炎とか胃・十二指腸潰瘍、消化不良といった病名にあわせたお薬をと考えがちです。
しかし病名は同じでも、原因や症状の過程はさまざま。
漢方では、そのさまざまな原因や症状に応じるために数多くの処方が用意されています。
漢方薬は、症状を改善しながら自己治癒力をとりもどすお薬です。
飲み過ぎ・食べ過ぎ・胃腸の冷え・夏かぜ・クーラーの冷房病・下痢・吐き気・食欲不振など夏に多い症状に幅広く対応できます。
使い分けで体に一番ピッタリの本格的漢方処方を…
タイプ① 腹のはり・腹痛・口の粘り・腹がすっきりしない・消化不良・食べたくない・下痢・吐き気・体が重い
タイプ② 元気がない・疲れやすい・食事がおいしくない・食べると腹がはる・体が重く感じる
タイプ③ 冷たいものの飲み過ぎや食べ過ぎ・夏かぜ・夏かぜ気味少し寒気がする・体が重い・
下痢がひどい・ビールの飲み過ぎ・冷房が寒く感じる・吐き気・食事がまずい・腹痛
タイプによって、香蘇散を中心に、平胃散・六君子湯・カッ香正気散・胃苓湯などの処方を適切に、時には組み合わせて服用すると、夏の胃腸症状にとても効果があります。
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